高齢者の転倒予防に効く運動とは?理学療法士がやさしく解説

「最近、足元がふらつく気がする」
「一度転んでから、また転ぶのが怖くて外に出にくくなった」

そう感じている方、あるいはご家族のことが心配な方も少なくないと思います。

転倒は、高齢者にとって体への影響が大きい出来事です。ただ、だからこそ「怖い」という気持ちが先に立って、動くことを避けてしまうのは、逆効果になることがあります。

この記事では、理学療法士の立場から、転倒が起きやすくなる理由と、日常生活の中でできる転倒予防の運動をやさしくお伝えします。

転倒予防の運動は、特別に難しいことをする必要はありません。まず「しっかり立つ」ことから始め、少しずつ動きを加えていくことが、体に自信を取り戻す近道になります。


目次

なぜ高齢者は転倒しやすくなるのか?

転倒は、突然「運が悪かった」から起きるわけではありません。年齢とともに体にいくつかの変化が重なることで、転倒しやすい状態が少しずつつくられていきます。

代表的な変化は次の3つです。

足の筋力の低下 立つ・歩く・段差を越えるといった動作には、太ももやふくらはぎの筋力が必要です。筋力が落ちると、足が十分に上がらなくなり、わずかな段差でもつまずきやすくなります。

バランス能力の低下 体のバランスをとる感覚は、年齢とともに鈍くなります。少しの揺れや方向転換に対して、とっさに体を立て直す力が弱まっていきます。

歩行速度の低下 歩くスピードが落ちると、体重移動のリズムが崩れやすくなります。日本人高齢者を対象とした研究(Lu, 2025)では、歩行速度が毎秒0.75m以下になると、3年後の転倒リスクが高まることが示されています。

理学療法士として現場でお話をしていると、転倒をきっかけに入院や介護が必要な状態になる方は少なくありません。特に心臓や腎臓に持病のある方では、転倒の影響が体全体に及ぶこともあります。だからこそ、転倒する前から少しずつ備えておくことが大切です。


転倒予防に効果的な運動の考え方

転倒予防の運動と聞くと、難しいバランス訓練を想像するかもしれません。でも、理学療法士として伝えたいのは、ただ立っているだけでも、バランスをとる練習になっているということです。

バランスには大きく2種類あります。

静的バランス 止まった状態で体を保つ力です。椅子から立った後にぐらつかず、その場に安定して立ち続けることができるかどうかがひとつの目安になります。

動的バランス 動きの中で体を保つ力です。歩く・向きを変える・段差を越えるといった動作の中で、体が崩れないようにとっさに調整する力です。

安全に日常生活を送るためには、この2つのバランスがどちらも大切です。まず静的なバランスを整えてから、動きの中でのバランスへと少しずつ広げていくのが、無理なく続けられる順序になります。こうした段階的なバランス練習が転倒予防に効果的であることは、複数のメタ解析でも支持されています(Barry, 2014)。


自宅でできる段階別の転倒予防運動

理学療法士として、バランスの練習は次の段階を踏みながら進めることをおすすめしています。自分がどの段階から始められるか、試しながら確認してみてください。

STEP
STEP 1:しっかり立つ

両足を肩幅に開いて、まっすぐ立ちます。壁や椅子の背もたれに手が届く場所で行うと安心です。ふらつかずに30秒ほど立てれば、次のステップへ進む目安になります。 → 30秒が難しい場合は、まず10秒を目標にしてください。それだけでも十分な練習になります。

STEP
STEP 2:足を閉じて立つ

両足をそろえて立ちます。支持面が狭くなるため、バランスをとるのが少し難しくなります。こちらも30秒を目安に。 → 不安定に感じる場合は、STEP 1の肩幅に戻って練習を続けてください。焦る必要はありません。

STEP
STEP 3:目を閉じて立つ

STEP 1か2の姿勢で目を閉じてみます。視覚の情報が減る分、体内のバランス感覚だけで体を保つ練習になります。最初は数秒でも構いません。

STEP
STEP 4:一歩踏み出して保つ

片足を一歩前に踏み出した状態(タンデム立位)で、体を保ちます。前後の揺れに対応する力が鍛えられます。

STEP
STEP 5:片足で立つ

壁や椅子に手を添えながら、片足で立ちます。左右それぞれ10秒を目標に。慣れてきたら支えなしに挑戦してみてください。 → 手を添えても10秒が難しい場合は、STEP 4に戻って前後のバランスからもう少し練習してみてください。

このほか、**ふくらはぎの筋力を鍛えるかかとの上げ下げ(カーフレイズ)**も、転倒予防に役立つ運動のひとつです。椅子の背もたれに手を添えながら、ゆっくりかかとを上げ下げするだけでできます。

バランスの練習中は、必ず壁や椅子のそばで行ってください。ふらついたときにすぐ手をつける環境をつくることが、練習中の転倒を防ぐ基本です。足や膝に痛みがある場合、ふらつきが強くて立つのが不安定な場合、または転倒の経験がある場合は、ご自身で判断して進めるより、医師や理学療法士に相談してから始めることをおすすめします。状態に合った練習を一緒に考えてもらえます。


どれくらい続ければよいのか?

毎日でなくても構いません。週に3〜4回、気づいたときに取り組む程度で十分です。

大切なのは、回数や時間よりも「続けること」です。バランス能力は、使い続けることで維持できます。逆に、しばらく使わないでいると少しずつ衰えていきます。「今日は1分だけ」でも、続けることに意味があります。

散歩や買い物など、外に出て歩く機会をつくることも、動的バランスの練習として日常に組み込みやすい方法のひとつです。転倒が怖くて外出に踏み出せない方は、高齢者の散歩はどれくらい歩けばいい?で「小さく始める歩き方」を参考にしてみてください。


転倒が怖くて動けないと感じたら

「転んでから、また転ぶのが怖くて動けない」という状態は、理学療法の現場では転倒恐怖心と呼ばれます。

この気持ちは自然なものです。ただ、怖さから動くことを避けすぎると、筋力やバランス能力がさらに落ちて、かえって転倒しやすくなるという悪循環が起きやすくなります。また、動きが縮こまることで、かえってバランスが崩れやすくなることもあります。

理学療法士として感じるのは、一度転倒した後でも、段階を踏んで体を動かし続けることで、日常生活に元気に戻れる方がいるということです。最初は怖くて当然です。まずは壁のそばで立つだけ、椅子から立ち上がるだけ——そういった小さな動きから自信を取り戻していくことが、回復の第一歩になります。

フレイル予防を全体的に見直したい方は、フレイル予防の基本で運動・栄養・社会参加のつながりも確認してみてください。


今日からできる最初の一歩

転倒予防の運動は、今日から始められます。まず、次のことを試してみてください。

壁のそばに立ち、両足をそろえて30秒間、ふらつかずに立てるかどうか確認してみてください。それだけで、自分のバランスの現状がつかめます。できた方は、次に目を閉じて挑戦してみましょう。難しかった方は、両足を肩幅に開いた状態からゆっくり練習を始めてみてください。

高齢者の運動全般については、高齢者の運動とは?無理なく続けられる種類と5000歩の目安を解説で詳しくまとめています。

まずは壁のそばで「足を閉じて立つ」を今日試してみてください。ふらつく感覚があれば、STEP 1からゆっくり始めるサインです。小さな確認が、転倒予防の大きな一歩になります。


まとめ

転倒は、筋力・バランス・歩行速度の低下が重なって起きやすくなります。予防のためには、静的バランス(立つ)から動的バランス(動きの中で保つ)へと段階を踏んで練習することが効果的です。

まず「しっかり立つ」→「足を閉じて立つ」→「目を閉じて立つ」→「一歩踏み出して保つ」→「片足で立つ」という順序で、自分のペースで試してみてください。転倒が怖いと感じている方こそ、小さな動きから少しずつ自信を取り戻していくことが大切です。

毎日でなくても、週に数回続けること。外に出て歩くこと。その積み重ねが、体を守る力になっていきます。


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監修者からのコメント

本記事は、理学療法士としての臨床経験と、フレイル予防に関する国内外のガイドライン・一次情報を基に構成しています。

「今日から何ができるか」を重視し、専門知識をできる限り生活に落とし込むことを意識しました。

解説している内容は「日常生活で実践可能な行動」に重点を置いています。
気になる症状が長引く場合は、医療・専門職の評価を受けることをおすすめします。

監修:理学療法士 リハプロ代表

監修者プロフィールはこちら

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この記事を書いた人

リハプロ代表のアバター リハプロ代表 理学療法士

山陽地域を中心に活動する、臨床経験18年目の現役理学療法士です。これまでのキャリアで延べ6万単位以上の理学療法に従事し、特に高齢者の自立支援とフレイル予防を専門としてきました。
4児の父として育児に奮闘する傍ら、現在の医療・介護報酬の限界を打破するため、最新のIT・AI技術を駆使した「介護に頼らない健康的な身体を維持する仕組みづくり」に挑戦中。
当サイト「ジョグタイム」では、医学的根拠(エビデンス)に基づいた正しい運動知識と、40代から意識すべき「フレイル」対策を、理学療法士の視点で分かりやすく解説します。
【保有資格・実績】
・理学療法士
・フレイル・介護予防関連の臨床経験あり
・Pythonを用いたリハビリ支援システム開発中

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