「運動しなければいけないとはわかっているけど、何をすればいいのかわからない」
そう感じている方は、少なくないのではないでしょうか。
インターネットで調べると、さまざまな運動メニューや情報が出てきます。
でも、情報が多すぎて、かえって「自分に何が合うのかわからない」となることもあります。
この記事では、高齢者の運動について、理学療法士として現場で感じてきたことを交えながら、
「何を・どれくらい・どうやって続けるか」の全体像をやさしくお伝えします。
高齢者の運動は、大きく3つの要素に分けて考えることができます。
- 筋力を保つ運動(スクワット・踵上げ・お尻上げなど)
- 体力・心肺機能を保つ運動(早歩きでの散歩など)
- バランスや安定性を保つ運動(片足立ち・体幹を使う動作など)
これらを無理のない範囲で組み合わせていくことが大切です。
まずは最初の2つから始めるだけでも、フレイル予防として十分な効果が期待できます。
高齢者の運動で大切なのは、「たくさんやること」よりも「続けること」です。
まず3種類の運動を週3回続けることを目標にしてみてください。
スクワット・踵上げ・お尻上げ、そして早歩きでの散歩——
この組み合わせが、フレイル予防の基本として現場でも広く使われています。
まずは「スクワット」と「歩くこと」から始めてみると、それだけでも十分な一歩になります。
高齢者に運動が必要な理由
年齢とともに筋肉は自然に減っていきます。
運動はその減少を緩やかにし、転倒やフレイルを防ぐための大切な習慣です。
人の体は、使わなければ衰えていきます。
これは若い人でも同じですが、高齢になるほどその速度が速くなります。
筋肉量は30代以降から少しずつ減り始め、70代以降になるとその速度が加速します。
筋肉が減ると、立ち上がりにくくなる・歩くのが遅くなる・転びやすくなる、という変化が起きてきます。
理学療法士として多くの高齢者の方と関わっていると、
運動習慣がある方とない方では、数年後の体の状態が大きく変わってくる印象があります。
続けている方は、歩行も安定していて、入院後の回復も早い傾向があります。
逆に、「動くのが億劫になってきた」という段階が、実は気をつけどころです。
動きにくいから動かない→さらに動けなくなる、という悪循環に入りやすい時期だからです。
「フレイル」とは、加齢とともに心身の活力が低下した状態のことです。
身体的フレイルの主な原因の一つが筋力低下(サルコペニア)で、
運動はそれを防ぐ最も有効な手段とされています。
フレイルについて詳しく知りたい方は、[フレイルとは?](https://jogtime.jp/what-is-frailty/)もあわせてご覧ください。
高齢者に向いている運動の種類
運動の種類は大きく「筋力系」と「有酸素系」に分けられます。
高齢者にはこの2種類をバランスよく取り入れることが勧められています。
理学療法士として特に伝えたいのは、「たくさんの運動をしようとしない」ということです。
メニューが多すぎると続かなくなります。
まず3種類の筋力運動と、歩く習慣——これだけに絞るのが現実的です。
筋力系:3つの運動から始める
① スクワット(立ち座り運動)
椅子の前に立ち、ゆっくり腰を下ろして、またゆっくり立ち上がります。
太ももとお尻の大きな筋肉を使う運動で、立ち上がり動作や歩行の安定に直結します。
転倒が心配な方は、椅子の背もたれを持って行うと安全です。
② 踵上げ(カーフレイズ)
つま先立ちでかかとをゆっくり上げ下げします。
ふくらはぎの筋肉を鍛える運動で、歩くときの蹴り出しや血流の改善に効果があります。
台所仕事や歯磨きのときに、立ちながらできるのも続けやすいポイントです。
③ お尻上げ(ヒップリフト)
椅子や床に座った状態から、お尻をゆっくり持ち上げます。
お尻の筋肉(大臀筋)と体幹を同時に鍛えられ、立ち上がりや歩行の安定を支えます。
3つの筋力運動の目安
– スクワット:10回 × 2〜3セット
– 踵上げ:10〜15回 × 2〜3セット
– お尻上げ:10回 × 2〜3セット
痛みがある場合は無理せず、回数を減らしてください。
まずは「できる範囲でやってみる」が大切です。
有酸素系:早歩きで30分
筋力運動と合わせて効果的なのが、早歩きでの散歩です。
「少し息が上がる程度」の速度で歩くことで、心肺機能が刺激されます。
歩行速度は健康状態のバロメーターにもなります。
研究では、歩くスピードが遅くなることとフレイルリスクの高まりに関連があることが示されています(Kyrdalen, 2018)。
「ゆっくり歩くよりも、少しだけ速く歩く」を意識してみてください。
目安は1回30分程度。
ただし毎回きっちり30分でなくても構いません。
「いつもより少し速く、少し遠くまで」から始めてみてください。
運動不足が続くと体はどうなるのか
運動不足の影響は、じわじわと、気づかないうちに進んでいきます。
「最近、疲れやすくなった」「立ち上がりがつらい」と感じ始めたら、
それはすでに体からのサインかもしれません。
運動しない日が続くと、まず筋肉量が減り始めます。
筋肉が減ると、動くのがつらくなる→さらに動かなくなる→さらに筋肉が減る、という悪循環に入りやすくなります。
具体的に起きやすい変化をまとめると:
- 歩くスピードが遅くなる
- 椅子からの立ち上がりに時間がかかる
- 階段の上り下りがつらくなる
- 疲れやすく、外出が億劫になる
- 転倒のリスクが高まる
こうした変化が重なることで、フレイル(虚弱)へとつながることがあります。
これらは単独ではなく、連鎖して起きやすいものです。
一つ気になることがあれば、他も確認してみることをおすすめします。
現在の体の状態を確認してみましょう。
2つ以上当てはまる場合は、運動不足のサインが出ている可能性があります。
– 以前より歩くのが遅くなった気がする
– 椅子から立つときに手をつかう
– 階段で息が上がりやすくなった
– 1日中、体をほとんど動かさない日がある
– 外出が週2回以下になっている
どれくらいの頻度・量で運動すればよいのか
毎日完璧にやる必要はありません。
週3回続けられれば、十分な効果が期待できます。
理学療法士として現場で感じるのは、「運動しなければ」という意識はあっても、
なかなか実行に移せない方が多いということです。
「時間がない」「忙しい」という声はよく聞きます。
ただ、実際には「運動の優先順位が上がっていない」ことが多いように感じます。
買い物や家事、テレビを見る時間はあっても、運動の時間はつい後回しになりやすいのです。
だからこそ、「多くやろうとしない」ことが大切です。
3種類の筋力運動+週3回の早歩き散歩——この組み合わせを、
生活の中の決まったタイミング(例:朝食後、夕方の散歩)に組み込んでしまうのが続けるコツです。
運動の継続には「目標」が大きく影響します。
「転ばないようにしたい」「孫と一緒に出かけたい」「畑仕事を続けたい」——
何か具体的な目標があると、運動を続ける力になります。
漠然と「健康のため」よりも、自分の生活に結びついた理由が効果的です。
また、運動を習慣化するうえで気をつけたいのが、「最初から頑張りすぎないこと」です。
最初の1週間は回数を半分にしてもよいくらいです。
「続けること」が最優先です。
日常生活の中でできる運動
「運動のための時間」をわざわざ作らなくても、
日常のちょっとした動作を少し意識するだけで、体への刺激になります。
特別な道具も場所も必要ありません。
日常のなかで少し意識を変えるだけで、体を動かす機会は増やせます。
台所・洗面台での踵上げ
立ち仕事のついでに、かかとをゆっくり上げ下げする。
1回2〜3分でもふくらはぎの筋肉に刺激が入ります。
買い物は歩いて行く
近所のスーパーやコンビニまで、少し速めのペースで歩く。
荷物を持って帰ることで、筋力トレーニングも兼ねられます。
テレビのCM中に立ち上がる
座りっぱなしを防ぐために、CM中だけでも立つ・歩く。
長時間座り続けることは、筋力低下だけでなく血流にも影響します。
階段を使う
エレベーターではなく階段を選ぶだけで、太ももとお尻の筋肉が使われます。
膝に不安がある方は無理せず、手すりを使いながら。
こうした日常動作の積み重ねが、まとまった運動時間を補う力になります。
「今日は外に出られなかった」という日でも、家の中で体を動かす機会はあります。
スクワット・踵上げ・お尻上げを、それぞれ10回ずつ。 最初は1セットから始めて、慣れたら2〜3セットへ。
散歩のルートを決めておくと習慣にしやすい。 近所のスーパーへの買い物がてら歩くのも立派な運動。
台所での踵上げ、階段の利用、CM中の立ち上がり—— 「運動の時間」と切り分けず、生活に組み込んでしまう。
「孫と公園に行く」「来年も畑仕事をする」など、自分の言葉で目標を持つ。 その目標が、続ける力になる。
まとめ|まず3種類から、週3回続けてみる
高齢者の運動で大切なのは、「正しくやること」よりも「続けること」です。
スクワット・踵上げ・お尻上げの3種類の筋力運動、週3回の早歩き散歩、そして日常動作への意識——
この3つを組み合わせることで、高齢者の運動の基本は十分にカバーできます。
「全部できなかった日」があっても大丈夫です。
「昨日できなかったから、今日また一つやってみよう」という感覚で十分です。
完璧にやろうとしなくていい。
まず一つ、始めてみてください。
運動の具体的な内容を知ったら、次は「続ける仕組み」を考えてみましょう。
散歩をフレイル予防に活かす方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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