「最近、食が細くなった」は体からの重要なサイン
「以前より食事量が減った」「むせやすくなった」「固いものが食べづらい」 このような変化を、年齢のせいだから仕方ないと感じていませんか。理学療法士として多くの方を見てきた中で感じるのは、 歩けなくなる・元気がなくなる前に、必ず“食事の変化”が起きているという事実です。
実は、低栄養やお口の衰えはフレイルの最初の入口。 高齢者の栄養状態と身体機能の関連を調査した研究では、オーラルフレイルがある人は栄養状態が悪化しやすく、サルコペニア(筋力低下)や低栄養のリスクが高まることが示されています。
逆に言えば、今から食事と口腔ケアを見直すことで、将来の歩行や生活の質は大きく守れます。どれだけ運動を頑張っても、材料となる『栄養』が足りなければ、筋肉は削られていく一方です。これをリハビリテーションの現場では『低栄養による負の連鎖』と呼びます。
だからこそ、この機会に栄養についてしっかりと見直していきましょう。
意外と知らない「低栄養」がフレイルを加速させる理由
カロリー不足より深刻な「タンパク質不足」
低栄養と聞くと「食べる量(カロリー)が足りていない状態」を想像しがちですが、 実際に問題となるのはタンパク質不足です。高齢期では食事量が自然と減る一方で、 筋肉・免疫・回復力を保つためには若い頃と同等、もしくはそれ以上のタンパク質が必要とされています。
実際、日本人高齢女性を対象とした研究では、総タンパク質摂取量が多い人ほどフレイルのリスクが低いという関連が認められています。厚生労働省や日本老年医学会の報告でも、 タンパク質摂取量の低下がサルコペニア(加齢性筋肉減少)やフレイル進行と強く関連することが示されています。
覚えておきたい合言葉「さ・あ・た・に・ご・ま・わ・や・さ・い」
栄養バランスを難しく考える必要はありません。 日々の食事では、次の食品群を意識しましょう。
- さ:魚
- あ:油(良質な脂質)
- た:大豆・大豆製品
- に:肉
- ご:ごま・ナッツ
- ま:海藻
- わ:わかめなどの海藻類
- や:野菜
- さ:果物
特に魚・肉・大豆・卵・乳製品は、 筋肉と体力を支える“貯筋の材料”として欠かせません。これらはタンパク質だからです。フレイル予防教室などで地域の講座に出向くときに栄養士さんと一緒になることがありますが、その時に説明されるのは、1日3食、タンパク質を手のひら1枚分(約20g)必要ということです。一食で20gですから、一日の摂取量は60g必要です。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」にも、成人のたんぱく質の推定平均必要量は0.66g/kg体重/日とされています。加齢に伴う筋力低下を防ぐためには、これを上回る60g/日程度のタンパク質摂取を意識したいところです。
普段の食事を考えてみると昼食や夕食は肉や魚を食べることが多いと思いますので、昼食と夕食の中ではタンパク質の摂取は比較的しやすいといえます。しかし、朝食はパンとコーヒーで済ます人が多い印象ですからにタンパク質が不足しがちです。そのため、朝食には卵や牛乳などのタンパク質を意識的に摂取することが望ましいでしょう。
岡山や広島などの山陽地域は新鮮な瀬戸内の魚が手に入りやすい環境です。例えば、サワラやタコは良質なタンパク源であり、ビタミンDも豊富です。地元の産直市場を賢く活用することも一つのポイントです。
それでも食欲があまりない場合もあるかもしれませんし、毎回調理するのもしんどいときがあるでしょう。そんなときは、『市販の栄養補助飲料(メイバランス等)』や『高タンパクヨーグルト』を1品足すだけの、無理のない工夫をしてみてください。実際にリハビリ現場でも食事量の少ない患者さんに提供していますので、自分に合った方法で栄養を摂っていきましょう。
「オーラルフレイル(お口の衰え)」は全身の衰えの入り口
お口の衰え(口腔機能の低下)は、栄養状態の悪化と関連しており、栄養リスクスコア(GNRIなど)が低い人でオーラルフレイルが高いという報告があります。
見逃されやすいオーラルフレイルのサイン
次のような変化がないか確認してみてください。
- 滑舌が悪くなった
- 食べこぼしが増えた
- お茶や汁物でむせる
- 硬いものを避けるようになった
これらはオーラルフレイル(口腔機能低下)の初期サインです。 日本歯科医学会の報告では、オーラルフレイルがある人は 将来的にフレイルや要介護状態へ移行するリスクが高いとされています。
今日からできる「パタカラ体操」
お口の機能は、筋肉と同じく使えば維持・改善が可能です。
- 「パ」:唇をしっかり閉じる
- 「タ」:舌を上あごにつける
- 「カ」:舌の奥を持ち上げる
- 「ラ」:舌を丸めて動かす
1音ずつ、はっきり10回。 食前や歯磨き後に行うだけでも、飲み込みや発音の安定につながります。
理学療法士が教える「安全な食事姿勢」
誤嚥予防で意外と見落とされがちなのが食事姿勢です。誤嚥は飲み込みの力が弱っているだけでなく、首や体幹の支持力や姿勢が上手く保てないことでも起こりやすくなります。理学療法士として姿勢を維持する力を整えることで、誤嚥リスクを下げることを普段の業務で実感しています。
- 椅子に深く座り、骨盤を立てる
- 足裏は床にしっかり接地
- 背中を丸めすぎず、やや前傾
- 顎を軽く引く(首を反らさない)
理学療法士の立場から見ると、 首と体幹の角度が整うだけで誤嚥リスクは大きく下がります。顎をあげて首を上に向けると誤嚥しやすくなるため、顎を引いて食事をするとよいです。
テレビを見ながら、ソファで浅く座って寝そべりながら食べるのは要注意です。
まとめ|美味しく食べて、元気に動くために
低栄養やお口の衰えは、静かに進行します。 しかし、早めに気づき、対策すれば十分に防げるのも事実です。
大切なのは、 「食べる → 動く → また食べられる」 この好循環を作ること。
運動と栄養は、どちらか一方では成り立ちません。栄養を確保したら、しっかりと運動をして貯筋を作っていきましょう。
また、社会的孤立は、低栄養やフレイル指標と関連があり、孤立した高齢者は非孤立者に比べて体重減少や筋力低下が起こりやすいとの報告があります。社会とのつながりをしっかり意識することも重要な要素です。
まずは今日の食事から、 「よく噛む・姿勢を整える・タンパク質を意識する」 この3つを意識してみてください。
▶ 簡単セルフチェック

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